父と何時間も話し込んで感情がめちゃくちゃです

アダルトチルドレン

 夫の父が亡くなった。夫の実家で葬儀をあげた後、私だけ一足先に横浜に戻ってきた。私の実家のお隣さんに愛犬を預けていたので、父に挨拶がてらお迎えに行ったのだ。

 愛犬を無事にお迎えしてから、お茶を飲みながらとりとめもなく父と話をしていた。父はアスペ1ではあるが、長年あの母に連れ添っただけのことはあって本当によく話を聞いてくれる。私は最初もっぱら夫の愚痴をこぼしていたのだが、そのうち実家のメンバーそれぞれの性格の話になり、やがて母の話になった。

 例えば母が私の進路を勝手に決めていた話。母に「ぐりえちゃんはお医者さん(母の憧れの職業)になりたいのよね」と言われて「お医者さんになりたい」と答えていた話。母に「ぐりえちゃんは〇〇中等部(母が憧れていた学校)を受験したいのよね」と言われて「○○中等部に行きたい」と答えていた話。塾の先生には「もっといい学校受けないの?」と言われたが、「○○中等部に行きたいです」としか言えなかった話。父は何も知らなかった。
 大人になってから母に「ぐりえちゃんは小さい時ピアノの先生に『才能があるから音大に進むなら受験用の先生を紹介する』と言われてたのよ」と自慢げに言われたのだが、そんな話は初耳だった。つまり母は私の意志を全く聞かずに勝手に音大の道を断ってた訳で、今にしてみれば謝りこそすれど自慢するところではないと思うのだが。その話を父にしたら、父もそれは初耳だったという。
 父としては私は自由にのびのびと育てられていたと思い込んでいて、私がバレエやアイススケートを習いたいと言ったが全拒否されてたことも知らなかったし、唯一のやらされていた書道は私が好きで習っていたのだと思っていた。父は昭和の猛烈サラリーマンだったので、教育に関しては母のワンオペだったから、さもあらん。

 また、私が幼少期からずっと怯えていて精神を蝕んだ『夫婦喧嘩』の話もした。父はあれを『喧嘩』だとは思っていなくて「母がなにか文句を言ってたけど怒られる理由もなかったので黙って母の機嫌が直るのを待っていた」と笑っていた。母がお皿やコップや窓ガラスを割ったり、父のパソコンや眼鏡を何個も破壊したり、ドアや壁を椅子で叩いて穴を開けたりしてたのは、全部笑い話だそうだ。私は家にいる時いつも母から父に対する罵詈雑言を聞かされていて、私が母のサンドバッグ状態だったことも知らなかったし、結婚してからも母から「離婚する」「助けて殺される」「今すぐ殺すから」という電話を頻繁に受けていたことも知らなかった。

 はっきりした事もあった。母は父と私の仲を嫉妬して引き裂いていたこと。父いわく母は「ぐりえちゃんをほめると怒り出した」「ぐりえちゃんのために何かをしようとすると止められた」だったそうで、私は私で父をフォローするような事を母に言うと激怒されたり「父がかわいそう」など口走ろうもんなら食事を作ってくれなくなったりした。他にも具体的なエピソードがいろいろあるが、恥ずかしいので割愛する。母が他界した今は父と初めてゆっくり話せるようになったし、順番的にはこれでよかったのだろうなと思ってしまう。

 父と考えた母のプロファイリングはこうだ。母は『自分の叶えられなかった夢を叶えるための自分の分身』として私を育て、私との間に人格の境界はなかった。私には姉もいるのだが、姉はADHD2気味であり母もコントロールができなかったので、分身として育てるのは諦めたっぽい。その点私は従順で知能も高く、思い通りに育てることができたのだろう。だが分身はあくまでも分身であって、本人を差し置いて分身がほめられたり世話をやかれたりするのは不愉快だったと思われる。特に母が独占したい父についてはなおさらだ。だから母は、父と私を遠ざけていたのだ。

 また、母はおそらく二重人格(解離性同一性障害3)だったと思われる。何かの拍子に突然目つきが変わって、なぜか昭和40年代の父に対する怒り心頭の話(5パターンほどのエピソード)を繰り返すようになるのが常だった。そうなると口調が激しくなり、放送禁止用語を連発。だが数時間~数日でまた元の母に戻り、何もなかったように振舞う。普通だったら「昨日はちょっと言いすぎてごめんね」とか「恥ずかしいから忘れてね」とか気まずくなりそうなもんだが、そういう反省は全くない。まるで覚えていないのかのようなのだ。
 なので私がたてた仮説は、「”昭和40年代”に抑圧された出来事がたくさんあったがために父に対して激しく怒る別人格が作られてしまった」というもの。あるいは幼少期に母の父(祖父)が恐ろしく怖い人で怒鳴られたり長男を優遇しすぎて自分は不遇だったという話を聞いたことがあるので、その頃に既に”父”or”夫”というものに対する怒りの別人格の素地が作られていたのかもしれない。
 この話を父に話したら、めちゃめちゃ納得してくれた。「それは合点がいく」と言われた。だからおそらくこの仮説は正解。ただ母はプライドが高くて「精神病院」を酷く差別していたので、当時は絶対に連れていくことはできなかったねという話もした。

 最後に父は、辛いことを思い出して泣いている私に「何も知らなくてごめんね」と言いつつ「全部忘れてね」と朗らかに言った。「ママのいいことだけ覚えててあげて」と。もちろんそれに異論はないのだが、つくづく父はアスペだなぁと思った。問題を捉える時に人の気持ちは二の次になってしまうそういうところに、母はいつも怒り心頭だったのだと思う。私は発達特性4にはいろいろなタイプがあることをよく知っているので、イラッともしないけどね。

 父はさらに「ぐりえちゃんは何かやりたいことはないの?好きな事をするのが一番だよ。できれば夫婦で一緒のことをするのがいい」と言った。
 私?やりたいことはない。好きな事もない。夫は協調性がなくせっかちなので、私に合わせてくれることはない。だとすると私ができる唯一の事は、夫の要望をひたすら汲み取って動くことぐらい。でもそれは生きているというのだろうか。生きる希望も何もあったもんじゃないな。
 90をとうに超えている父が「まだまだやりたい事がありすぎて、時間が全然足りない」とそれはそれは忙しそうにイキイキとしているのは羨ましい限りである。

 ともあれ父の前で本心をさらけ出したら、情緒的交流のできないASD5の夫に合わせてずっと押し殺していた感情が一気に溢れ出てしまい、めちゃめちゃ泣いてしまった。でもどこかスッキリした。父は「たまに吐き出すことはいいことだ。解決策は提案できないけどなんでも聞くよ。またおいで」と言ってくれた。私は心配して「深い話を聞かされて気持ちが引きずられない?」と尋ねたが、父は全く何とも思わないとのこと。アスペの父が最高の聞き役だったなんて、今まで知らなかった。ずっと孤独だと思っていたからすごく嬉しかった。

 ただ、また母の悪口を言ってしまったという罪悪感だけは残る。今ごろ母は鬼の形相で怒ってるだろうな。ごめんなさい。本当にごめんなさい。色々な感情がめちゃくちゃだ。


  1. アスペルガー症候群。発達障害の一つで、コミュニケーション能力や社会性に障害があり、対人関係が苦手という特徴があります。会話は表面上問題なくできますが、行間を読むことが苦手で、字義どおりの意味で解釈する傾向があります。そのため、冗談や皮肉が理解できず、他者の真意を勘違いしやすい傾向があります。人の心情を直感的に理解し共感したり、人の気持ちを想像したりすることが苦手なために、場の空気を読むことや、相手の気持ちに共感する言動がとれず、対人関係でトラブルを抱えがちです。「アスペルガー症候群とは? 症状や特徴について 【専門家監修】」https://www.n-fukushi.ac.jp/recurrent/topics/003878/ ↩︎
  2. 注意欠如・多動症(ADHD)。不注意、多動性、衝動性などの特徴がある発達障害の一つです。精神的努力を要する課題に注意を向け続けることが難しくすぐに気がそれがち、複数の指示に従うことが一度にできずどれかを忘れがち、順序だてた行動が苦手で行き当たりばったりになってしまうといった困りごとも多くみられます。「注意欠如・多動症(ADHD)とは? 症状や特徴、子どもとの関わりで大切なこと【専門家監修】」https://www.n-fukushi.ac.jp/recurrent/topics/003882/ ↩︎
  3. 解離性同一性障害。実際にも、心の中に別の人格がいて、それが目の前に現れたり、話しかけてきて、いつの間にかその人格に体が乗っ取られるという現象があります。精神医学では、心が別の人格に分かれる=解離するという意味で、多重人格を解離性同一性障害と呼んでいます。例えば、とても大人しい人が、気に入らないことがあって突然怒り出し、鬼のような顔つきの別人みたいになるのが代表的なものです。普段は絶対に使わないようなやくざのような口調で話し始め、大暴れすることもあります。数時間から数日すると元に戻り、暴れていた時のことを思い出せません。「解離性同一性障害について」https://meden.co.jp/column/mentalhealth37/ ↩︎
  4. 発達特性。「発達障害の人の特徴」ではなく、生まれつきの脳神経の発達の特性(傾向)のことを言い表しています。生まれつきの脳の個性は、顔や姿と同じように、ひとりひとり違います。近年は、様々な特性を「有無」や「白黒」で線引きするのではなく「連続体(スペクトラム)」でとらえる、という考え方が支持されるようになってきました。https://mentalhealth-join.com/tokusei/ ↩︎
  5. ASD(自閉スペクトラム症)。神経発達症(発達障害)の一つ。大人の場合、人とコミュニケーションをとるのが難しい。ほかの人の気持ち、先々の事柄を“想像する”ことが難しい。こだわりが強く自分の世界に没頭するなど。https://wellness.shionogi.co.jp/psychosis-neurosis/developmental-disability/property/asd.html ↩︎

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