父とよく話すようになりました

エッセイ

 

 早いもので母が亡くなってから1年半経った。

 1か月に1回ほどだが、一人暮らしの父がいる実家に遊びにいっては父とよく話すようになった。父はもうすぐ90歳になるが頭も体もしっかりしているので、話をしていると年齢を忘れるほどだ。母がいた頃よりむしろ話が尽きなくて、こんなよく喋る人だったかなと思う時がある。

 あまり父と長く話をした記憶がないのは父の人柄のせいかと思っていたが、そうではなくて母がそうさせなかったからなのかもしれない。昔は私が父と話をし始めると、必ず母が他の話題で割って入ったものだった。父も私もエンジニアなので、話は電化製品のことだったり携帯電話の使い方だったり家のネットワークの話だったりする。そんなとき母は「難しい話するわねえ」とつまらなそうに言っては、唐突に違う話を始めるのが常だった。

 母は本当にお喋りが好きで、私たち子ども達とお喋りするのも好きだったが、異常な形で執着するほど父の事が大好きな人だった。だから、父が私と楽しく喋っているのを何となく嫌がっているのはずっと感じていた。父もそれをわかっていて、なるべく私たちと話さないようにしていたと父から聞いたのは、母の死後だった。

 母が父より先に旅立った事は、母のためにも私たち父娘のためにもこれでよかったのだろうと思う。父が先にいなくなってしまったら、母はそれに耐えられなかったかもしれない。私は一生分以上に母と話をしたので、これからは父と一生分の話をしようと思う。

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