病院ラジオ「関東労災病院編」を見た

エッセイ

日曜日の午後、NHKの「病院ラジオ関東労災病院編(再放送)を見た。

番組概要

サンドウィッチマンが病院に一日限りの出張ラジオ局を開設。患者さんや家族の日ごろ言えない思いを、リクエスト曲とともにお届けする▼出会ったのは、結婚した翌年にがんが見つかった元看護師、勤務中の事故で利き腕を失ったシングルファーザー、学生時代の友人や仕事仲間に支えられる70代など、さまざまなエピソードを抱える人たち▼病気になって考えた命、人生、大切な人への感謝を伝える、笑いあり涙ありのドキュメンタリー。

今回の舞台は神奈川県川崎市の関東労災病院で、この病院は地域がん診療連携拠点病院にもなっている有名な総合病院。自らの命と向き合っている患者さんの言葉はとても重みがあったし、心を揺さぶられるものがあった。いくつかメモを取ったのでここに書き留めておく。

私が一番印象に残ったのは元看護師のめぐみさん。
寛解していた卵巣がんが再発し治療を続けてきたが、抗がん剤が効かなくなって治療を止めたという。それでもその話をしながらあっけらかんと笑い、恐怖でもなければ辛いという感じでもないという。

よく「山は逃げないからまた登ればいい」とか言うじゃないですか。でも山逃げるんですよ。
行きたい時に行かないとこうやって病気になっちゃったり、年取って体力無くなっちゃったり、っていうと行けないじゃないですか。

でも私は行きたいとかやりたいと思った時に全部、お金をあんまり貯める気もなくやりたい事に使ってきたので、行きたい海外とか登りたい山とか、なんか全部やったからいいかなと思って。

けれど、めぐみさんが旦那さんにそれをボソッと言ったら、普段あまり感情を出さない旦那さんが突然涙声で「そんなこと言わないでよ」と手をぎゅっと握ってきたそうだ。

あそうだ、家族の方が辛いんだとその時思って。だから残される人のためにも私は明るく楽しく生きていようと思ってて。

最後、変な話棺桶の中の私の顔が笑ってて、お葬式に来た人が覗いたらプっと笑ってくれるぐらいが理想だなと思って。

山は逃げる・・・その言葉にドキッとした。
私はどちらかというと人のためにばかり動いていて、自分がやりたい事はあまりやっていない、というか自分のやりたい事は未だにわからない。でもこんなことをしていたら、いつの間にか山は逃げてしまって後悔するのではないかと焦った。

自分の人生に満足して、残される人のことまで考えて笑って逝けたら本望かもしれないな。
私もこれからは自分がやりたい事を探してやりたい時に全部やろう。そうしたら逆に、余った時間で家族のために明るく楽しく最期まで生きていけるのではないかなと思った。

そんなめぐみさんが旦那さんと聞きたいとしてリクエストした曲は、マイケルジャクソンが唄う『smile』だった。

If you smile With your fear and sorrow
微笑めば 怖くても哀しくても

Smile and maybe tomorrow
微笑めば 怖くても哀しくても

You’ll find that life is still worthwhile if you’ll just…
人生まだまだ生きる価値があると 思えるさ…

Light up your face with gladness
喜びで顔を輝かせよう

Hide every trace of sadness
哀しみの跡を全部消してしまおう

Although a tear may be ever so near
涙が近くまで迫っていても

That’s the time you must keep on trying
そんなときこそ頑張らなくちゃいけない

Smile, What’s the use of crying
微笑もう 泣いてどうなるっていうんだ

You’ll find that life is still worth while
人生まだまだ捨てたもんじゃないと 思えるさ

If you’ll just smile…
微笑みさえすれば…

Smile – Lyrics by John Turner/Geoffrey Parsons

歌詞がしみる。

そしてもう一人、元看護職のきくちゆみさん。
5年前に自転車に乗っていて交通事故に合ってしまい、その1週間後に脳梗塞になり左半身麻痺になってしまったそうで、杖をついてゆっくり歩いてこられた。ゆみさんのご両親は早い時期に亡くなっていてずっと一人暮らしだったそうだが、長い入院中に16年飼っていたチワワも亡くなったという。

不幸はどうしてこう重なるのだろう。当然、気持ちの整理はつかなかった。交通事故の処理が滞っていた最中に突然脳梗塞になった事に、どうしても因果関係的なものを考えてしまったという。それをドクターやスタッフにぶつけたところ、そういう考えは一旦切り離して考えろと言われたそうだ。

っていうのは、事故のせいと思って生き続けていくと、何かうまくいかないことがあったりすると全部それに関連づけて恨んでずっと生きていくことになるからって。
だんだんと先生に言われたことが自分の中で上書きされていって、確かにそうだなと思って一旦忘れることにして・・・

そんな時、事故前からよくしてくれるソウルメイトの男性”ひーさん”がスパルタながらもリハビリにつきあってくれたという。

私は逆にそうされたことで「なにくそ!」って言う気持ちになって、今できなくてもゆっくりゆっくりやって、いずれできればいいやっていうふうな思考に変わっていった。

ゆみさんは、”ひーさん”と出会えなかったら生きてなかったと思うと即答した。

自分がこんな体になってみじめだなっていう気持ちが先にあったのね。歩き方が普通の歩き方と違ったりとかするのが気になってるとかっていうのもね、やっぱりありまして。

でもそれをね、こういう変わった歩き方しててもいいじゃないか、目的は歩いて自分の目的地に行く事なんで、その過程でどんな歩き方したって誰かれに迷惑かけるわけでもないんだからっていう風にくよくよしなくなりましたよね。

ゆみさんのリクエスト曲は、ひいさんが入院中に毎日動画を見て泣いてたと後で聞き、もらい泣きしたという思い出の曲『You raise me up』だった。

When I am down, and, oh, my soul, so weary
気持ちが沈み 心も疲れた時

When troubles come, and my heart burdened be
トラブルが起こり 心に抱えきれない重荷を背負っている時

Then, I am still and wait here in the silence
そんな時 私はまだ静寂の中で待っています

Until you come and sit awhile with me
あなたがやってきて 私の隣に座ってくれるまで

You raise me up, so I can stand on mountains
あなたが支えてくれるから 私は山の頂にも立てる

You raise me up – Lyrics by Brendan Graham

いやあ・・・泣きました。

私はなにかと追究するタイプで、どうしてこうなったの?どうしてそんなことするの?どうしてどうしてと、何もかも原因を明らかにしないと気が済まないため悶々と一人で考え込む時間がとても多い。

けど原因を何かに関連づけることは、このドクターの言うように恨みの感情を生みかねないのだ。ゆみさんの話を聞いてそれに気づかされた時、なんかふっと体の力が抜けた気がした。

1人でクヨクヨ考えるのはやめよう。きっと一緒に悩んだり笑ったりしてくれる人がどこかにいる。家族や近所の人やお友達がいなくても、世界中のどこかに誰かがいるはず。

ひとりじゃないよ。

コメント

テキストのコピーはできません。