多様性時代の”ゴリ押し”はアンチを増やすだけ

エッセイ

 私がテレビの”ゴリ押し”に拒否反応を感じるようになったのは、忘れもしない2014年、当時の安倍内閣が安全保障法制の整備について閣議決定した頃だったと思う。それまでは「サンデーモーニング」も「朝まで生テレビ」も「報道ステーション」も「NEWS23」も普通に楽しく見ていたのだが、その頃からこれらの番組で安倍内閣の話になると、眉根を寄せて強い口調で一方的に非難するアナウンサーやコメンテーターが増え始めたのだ。私は育った環境もあり、”誰かを一方的に批判する人”が本当に苦手で怖かった。賛成・反対・ほめる・怒る・・・いろいろな意見があってもいいはずなのに、なぜか全員が同じことを批判し続けるテレビ。あまりの気持ち悪さに背筋がゾワゾワし吐き気がするようになってきた。ゴリ押しアレルギーである。
 私の感覚がおかしいのかなと思いTwitterをリアルタイムで検索すると、「おかしい」とつぶやいている人も多くてホッとしたのを覚えている。インターネットがあって良かったとつくづく思った。

ゴリ押し
読み方:ゴリおし
別表記:ごり押し

受け手の意向を無視して自分の主張や見解を無理矢理に押し通そうとすること、を意味する語。たとえば、議論の場において異論を無視して自己主張を議決してしまうような振る舞い。

昨今では、マスメディアや広告代理店が流行の創出・牽引や世論の誘導などを目的として特定のコンテンツを集中的に取り上げ、一般消費者に半ば押しつけるような形になっている様子を指してゴリ押しと表現する用い方が多い。1

 ”ゴリ押し”という言葉は、女優の剛力彩芽さんが『実力以上に様々な賞を受賞し、ドラマ、CMに出まくっている、と見られて2』いた2012年頃から本格的に使われ出した感がある。剛力さんについては「またかよ(笑)」「事務所つよいな(笑)」ぐらいに笑い飛ばせたのだが、ニュースの偏向だけは理由がわからなくて本当に無理だった。

 そもそもテレビは貴重な公共の電波を使っているのだから、実際にあった出来事や実際に流行している物事だけ淡々と伝えてくれればいい。それを見たり聞いたりした時の感想など100人いれば100通りあるはずだ。どう感じるかまでテレビ局側に決められたくない。流行の創出?世論の誘導?何様なんだろうと思う。本当に気持ちが悪い。

 私は日本のプロ野球が好きなので野球で言えば、まず日テレの野球中継の実況アナウンサーが”巨人ゴリ押し”なのは野球ファンの間では周知の事実。日テレの筆頭株主が巨人の親会社・読売新聞グループであり、読売新聞グループのドンであり巨人の元オーナーである渡邉恒雄氏の影響力があまりにも大きいためである。日本人は全員巨人の応援をしているのかのような大げさな言葉の選び方と、巨人の選手が打てば普通の外野フライでもサヨナラ満塁ホームランのような絶叫。娯楽がテレビしかなかった昭和初期とは違うのだから野球ファンも多種多様なのに、それを全く無視した古臭い実況には違和感を通り越して失笑を禁じ得ない。”アンチ巨人”という言葉があるが、別にみんな巨人選手を嫌いなわけではない。”アンチ巨人ゴリ押し”なのだ。逆に巨人の選手が気の毒だ。日テレは猛省してほしい。

 それより私がもっと驚いたのは、広島に引っ越した時である。ニュースの中に必ず「今日のカープ」コーナーがあったし、毎日どこかしらのチャンネルでカープの試合を中継していたのには驚いたが、その”カープゴリ押し”実況たるやあまりにも酷かった。まずアナウンサーは相手チームの選手の名前をほとんど呼ばない。基本的に「ピッチャー」とか「バッター」とか「セカンド」などのポジション名で呼ぶ。しかも野球の実況はそっちのけでカープ選手の人柄とかカープの古き良き時代の話とかしてて、カープがチャンスの時と得点が入った時だけお祭り騒ぎだ。この人たちは一球一球がものすごい駆け引きの塊である『野球』というスポーツにはあまり興味がなくて、『カープ』というコンテンツが好きなのだなと思うととても悲しかったし、ベイスターズファンである私は酷く孤独を感じた。日テレの”巨人ゴリ押し”のほうが、野球中継としてはまだマシだったかも。J-SPORTSで広島の主催試合を見ている方はご存じかと思う。私が知り合った広島の若者にあまりカープファンがいなかったのは、この”カープゴリ押し”のせいかもしれない。広島のテレビ局は猛省してほしい。

 そして今その何百倍も何万倍も気持ちが悪いのは、テレビの”大谷ゴリ押し”である。どの局を見ても毎日毎日大谷選手の全打席を解説して、その他のスポーツには一切触れない事もある。挙句の果てには「大谷選手は今日は試合がありませんでした」まで報道。知らんがな。最初は大谷選手を応援していた私もさすがに気持ちが悪くなってきて、「続いてはスポーツです。まずは大谷選手・・・」と聞いた瞬間反射的にテレビを消すようになってしまった。ネットでは”大谷ハラスメント”などと揶揄されているのをテレビ局は知らないのだろうか。この多様性の時代みんなそれぞれの推し活をそれぞれの方法でしているのだから、大谷選手だけゴリ押ししないでほしい。何度も言うがテレビは公共の電波なので、広く浅く事実だけを淡々と教えてくれればいいんじゃないんですかね。それをキッカケにして、もっと知りたい人は自分で情報を調べにいくんだから。ぶっちゃけ「ドジャース早く負けてくんないかな」と思い始めてる人は私だけじゃないはずだ。大谷選手が本当に気の毒。日本のテレビ局は猛省してほしい。

 おまけ。衆議院総選挙の報道を見ていると、左派候補の多くが「~じゃないですかみなさん!」「~しようじゃありませんかみなさん!」と演説。しかもギャーギャー絶叫している。いやいや昭和の革命ごっこじゃないんだから。そんな個人の感覚を”ゴリ押し”されても、今の時代”アンチ”増やすだけじゃないですか?と思う。


  1. ゴリ押し, Weblio辞書, 2017年4月4日更新,
    https://www.weblio.jp/content/ごり押し(閲覧日2024.10.22) ↩︎
  2. 剛力彩芽の「ゴリ押し」に同僚もキレた! 「ビブリア古書堂」ヒロイン、「違うよね」J-CASTニュース, https://www.j-cast.com/2012/11/22155092.html(閲覧日2024.10.22) ↩︎

コメント

テキストのコピーはできません。