私は小さい頃から母の顔色を伺って生きてきた。いわゆるアダルトチルドレンである。母に置いていかれまいと、いつもいつも母を見張り、顔色を伺い、先回りしながらついて歩いていた。はぐれると泣きながら探し回り、ごめんなさいごめんなさいと謝ってそばにいさせてもらった。母も私に過度に干渉してきた。自分が出来なかった事を私にやってもらいたいという期待があったのだと思う。うつ病になってからもその事は私を苦しめた。期待に添えなかった自分を責め、母に見捨てられるのではないかという恐怖に怯えた。
だが今、私は母との距離を適切に保っているように思う。きっかけとなったのは、私がストレスケア病棟に3ヶ月入院したことだった。それまで毎週のように電話をかけてきた母であったが、入院中はパッタリと連絡が途絶え、病院に顔を出すこともなかった。ストレスケア病棟といっても所詮は精神病院である。世間体をすごく気にする母のことだから、精神病院になど来たくなかったのだろう。入院して2ヶ月ぐらいのときにその事を認識した私は、寂しさと孤独感でいっぱいになり、何日間か激しく号泣した。見捨てられたのだと思った。人生で初めての母との別離だった。
結果的にそれがよかったのだろう。退院した私は素直に母に会いたいと思った。不思議と以前ほど母の顔色を伺う事もなくなっていた。怖くなくなっていた。母からの電話もそれほど頻繁ではなくなった。今でもあの時なぜ母が一度もお見舞いに来てくれなかったのかわからない。でも母ももう私に期待することもなくなっただろうと思うと、私の気持ちは軽い。
コメント