『ETV特集ドキュメントトラウマ治療』を見た

11月1日(土)にEテレで放送していた『ETV特集ドキュメントトラウマ治療』を、PTSD当事者として興味深く見た。

ETV特集ドキュメントトラウマ治療

日本のトラウマ治療の第一人者と言われる、精神科医の白川美也子さん。この２７年間で５０００人の治療に携わってきた。性被害や虐待などを受け、今も当時の記憶のフラッシュバックに苦しむ人々。今、日本でＰＴＳＤに苦しむ人は７０万人と推計される。しかし、トラウマ治療の専門クリニックは数少ない。トラウマを生み出すものは何か？どうすれば回復できるのか？治療現場に密着し、１年にわたるドキュメントから見つめていく。

ETV特集より

トラウマを体験した人の多くは、その体験が強烈なためその時に感じた感情や感覚を処理しきれず ”冷凍保存” すると言う。しかしなんらかの引き金によりその記憶が解凍されると、その時の感情や感覚が呼び起される。それがPTSD（心的外傷後ストレス障害）である。

白川先生の治療では、トラウマ体験からくるその感情や感覚を感じきる事で、トラウマ体験を ”過去のこと” と認識できるようにしていくものだ。具体的な療法として、例えば「ボディコネクトセラピー」は二本の指で体のツボ（親指と人差し指の間、鼻の下、アゴなど）をトントン刺激しリラックスさせながら、棒の先端を目で追わせ脳の処理能力を高め、苦しみがどこから来るのか探っていくもの。また「EMDR（眼球運動による脱感作と再処理法）」は、先生が左右に素早く大きく動かす指を目で追わせ、眼球を左右に動かし脳を刺激しながら、当時の感情や感覚に迫っていくもの。

「いま何がある？」
「それと一緒にいて」
「うん、わかるわかる」
「いまかすかに涙がわいてるそれがどこから来ているかに気づいて」
「もう責めなくていい　もうそれは終わった」
「嫌だって言える？」
「ちゃんと「嫌だ」って言えたねえ」
「泣いていいよ」
「言いたかった　言えなかったんだねえ」
「すごく上手にできたよ」

そんな風にして、トラウマの根幹に向き合っていく。患者さんたちはみな、当時抱いていた感情や感覚に向き合い泣いてしまう。その感情や感覚を感じながら当時はできなかった ”拒否” を体験することによって、少しずつ ”過去” に支配されない自分になるのだ。

白川先生は、トラウマの治療についてこうおっしゃる。

いま苦しんでいところから
それがどこから来ていのかなって1回降りてって
その根本的な部分っていうことを診て
そのことに影響されない記憶に変えていく

大事な事はしっかり感じきること
しっかり感じきったら過去になるんですよね
そうすると「ああよくなったな」っていうことが続いていく
っていう旅路になるってことですよね

そして多くの患者さんと向き合っていく中で、回復に必要な事に気づかれたそうだ。

一番大事なのは（周りの人が）わかって接するっていうこと
本当に小さな言葉かけでも思いやりでもその人を救える
理解をしようとしてくれる人ができたら回復するって私は信じているんですね

ドキュメントには何人かの患者さんが出てきていたが、私は娘を一人で育てている30代のカオリさん（仮名）が気になった。カオリさんは、幼少期に母親から暴力を振るわれ大きな声で怒鳴られるなど虐待を受けてきた。大きな音を聞くとその記憶がフラッシュバックして感情のコントロールができなくなるので耳栓をつけて生活している、というのが私にとてもよく似ていた。

カオリさんは本当は娘と一緒にいたいけど、娘の一挙手一投足に反応してひどい言葉を出してしまったり大声を出してしまったり、怒ってる自分の声に同時に怖がってる自分がいたりとかして訳が分からないと言う。それは過去に受けたトラウマの体験を無意識に自分や相手に繰り返してしまうトラウマによる症状の1つで、”再演” と呼ぶそうだ。それが怖くて自ら児童相談所に助けを求め、娘を一時保護してもらったこともあるらしい。

そんな話を聞くと、申し訳ないが私には子供ができなくて本当に良かったと思ってしまった。私に子供がいたら、今ごろ自分も子供もどうなっていたのかわからない。ドキュメント映像のカオリさん親子を見ているだけで「これは耐えられない」と強く思ってしまったから、やっぱり私には子供ができなくて正解だったのだと思う。

密着している中でカオリさんは、EMDRで脳を刺激してもらうことによって当時母親に抱いていた怒りの感情を少しだけ感じる事ができていた。先生が押してくる机を押し返して地団太を踏みながら「あっち行け！」と大声で言い、初めて母親を拒否することができていた。

先生はこの治療について、こう説明された。