サイレントマジョリティの消滅

 いつもその場の空気を読んで誰も怒らせないように生きてきたので、自分としてはバランス感覚を持った『サイレントマジョリティ(積極的な発言をしない多数派)』のド真ん中にいるつもりだった。それが最近はなにやら様子がおかしい。『サイレントマジョリティ』という層が無くなっている気がする。

 少し前まではSNSに『サイレントマジョリティ』と相対する『ノイジーマイノリティ(声だけ大きい少数派)』などと揶揄される層がいた。その『ノイジーマイノリティ』の人たちは、エビデンス(証拠)もない話を「疑惑だ!疑惑だ!」とギャーギャー騒いだりしていたが、そのたびごとに少し発言力のある良識派に論破されてそれほど相手にされなくなるものだった。
 ところが最近のSNSはどうだろう。『疑惑』どころか、反論できるエビデンスがあるような明らかな『デマ』ですら声高に騒ぐ人が現れ、内容をよく読まないままみんなで乗っかってギャーギャー騒ぐ。悲しい事に今のSNSは、情報の優劣よりも”注目されること”に価値がある『アテンションエコノミー』という空間だ。本当だろうが嘘だろうがどうでもいい、炎上すればするほど儲かるのでデマを平気で拡散するインフルエンサーが複数いて、何者かがbotを使ってそのデマにいいねやリツイートを大量発生させていることもわかっている。これによって「フィルターバブル」「エコーチェンバー」(後述)と呼ばれる状態に陥た人たちがデマ思想を先鋭化させた集団となり、民主主義が危険にさらされる可能性があるのだ。

 これはもう『ノイジーマイノリティ』ではない。極端な思想の『ノイジーマジョリティ』がいくつか発生していて、バランス感覚を持った真ん中の人たちが『サイレントマイノリティ』になっているのではないか?

 自殺者まで出るデマによる誹謗中傷が問題となった兵庫県知事選挙や、数々のデマで民衆の心をつかんだ参政党の大躍進など、実際に民主主義の選挙結果が変わってきているのだから笑いごとではない。

 今一度、総務省のサイトを引用したい。

  • 人は「自らの見たいもの、信じたいものを信じる」という心理的特性を有しており、これは「確証バイアス」と呼ばれる。
  • プラットフォーム事業者は、利用者個人のクリック履歴など収集したデータを組み合わせて分析(プロファイリング)し、コンテンツのレコメンデーションやターゲティング広告等利用者が関心を持ちそうな情報を優先的に配信している。
  • このようなプラットフォーム事業者のアルゴリズム機能によって、ユーザーは、インターネット上の膨大な情報・データの中から自身が求める情報を得ることができる。
  • 一方、アルゴリズム機能で配信された情報を受け取り続けることにより、ユーザーは、自身の興味のある情報だけにしか触れなくなり、あたかも情報の膜につつまれたかのような「フィルターバブル」と呼ばれる状態となる傾向にある。
  • このバブルの内側では、自身と似た考え・意見が多く集まり、反対のものは排除(フィルタリング)されるため、その存在そのものに気付きづらい。
  • また、SNS等で、自分と似た興味関心を持つユーザーが集まる場でコミュニケーションする結果、自分が発信した意見に似た意見が返ってきて、特定の意見や思想が増幅していく状態は「エコーチェンバー」と呼ばれ、何度も同じような意見を聞くことで、それが正しく、間違いのないものであると、より強く信じ込んでしまう傾向にある。
  • フィルターバブルやエコーチェンバーにより、インターネット上で集団分極化が発生しているとの指摘がある。
  • 意見や思想を極端化させた人々は考えが異なる他者を受け入れられず、話し合うことを拒否する傾向にある。
  • フィルターバブルやエコーチェンバーによるインターネット上の意見・思想の偏りが社会の分断を誘引し、民主主義を危険にさらす可能性もありうる。

令和5年版 情報通信白書|フィルターバブル、エコーチェンバー より

 もともとサイレントマジョリティのド真ん中にいるような人は、争いを好まない人が多い。知らない人から強い口調で言い返されるだけでも怖いのに、アホだのシネだの言われたら何も言い返せるはずがない。すでにこうした『ノイジーマジョリティ』の誹謗中傷を受けて自殺する人が何人も出ている。

 デマはいけないよ。誹謗中傷はいけないよ。それだけのことだ。いつまでもエビデンスと論理的思考だけを大切に、バランス感覚を持った人間でいられるようにありたいものである。

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