防衛本能がもたらす宿命

うつ病

 昨夜、NHKスペシャル 病の起源「うつ病~防衛本能がもたらす宿命~」を見た。なんと世界で3億5000万人以上が苦しむうつ病。日本でも患者は急増し100万人に達しているそうだ。私の気のせいかもしれないが最近うつ病の特集番組が少ないような気がしていて、久しぶりのNHKスペシャルを非常に興味を持って見たので覚え書き。
 
 うつ病患者の脳をMRIで詳しく調べると、軽度に脳の一部が萎縮しているのがわかるそうだ。萎縮を引き起こす原因は脳の奥深くにある扁桃体なのだという。
 扁桃体とは、5億2000年前に人類の遠い祖先である魚が誕生した時に、それまでの節足動物にはなかった脳に備わった部位。

天敵が近づくと危険を察知し扁桃体が活動
→ストレスホルモンが分泌され全身の筋肉が活性化
→運動能力を高めすばやく天敵から逃げる
→危険が去ればストレスホルモンの分泌もおさまる

この天敵から身を守るしくみがうつ病と深く関わっているのだそうだ。
 最新の研究によるうつ病発生のメカニズムはこうだ。

強い不安や恐怖などが続くと扁桃体が過剰に働く
→全身にストレスホルモンが大量に分泌される
→過剰なストレスホルモンが脳に及ぶと神経細胞に必要な栄養物質が減少
→この状態が続くと神経細胞が栄養不足に陥り縮んでしまう

うつ病患者は健康な人よりも扁桃体の活動が強くなっているせいで恐怖や不安といった症状が強くなっていて、また脳の萎縮のせいで意欲や行動の低下を招いているのだという。

 北米ストレス行動学会で行われた魚を使ったうつ病の研究。1ヶ月間天敵の魚を入れて飼育されたゼブラフィッシュは、初めは素早く逃げ回っていたがある時期を境にうつ状態になってあまり動かなくなった。調べてみるとストレスホルモンが大量に分泌されていた。
 ノースウエスト・チンパンジー保護施設。感染症の疑いがあって1年半も仲間から隔離されていたメスのチンパンジー・ネグラは、外に出ず1日中屋内で過ごしていて他の仲間と関わることはほとんどなく、うつ病と診断されている。孤独になったチンパンジーはストレスホルモンの値が高いことがわかっている。
 その一方で、現在も狩猟採集の暮らしを続けるタンザニアのハッザの人々にうつ病の度合いを測るテストをしてみたところ、うつ病の人はいなかったし日本人やアメリカ人と比べても点数も極めて低かった。研究者は理由はその暮らしにあると考えている。集めた食料を100%みんなで分け合うので、暮らしは極めて平等。現代社会の人が持つ悩みはほとんどないのでうつ病がないのだという。

 脳情報通信融合研究センターの春野雅彦博士は、平等と扁桃体の関係に注目し実験を行ってきた。被験者に「お金を分け合う実験」として「自分が損をする」「自分が得をする」「ほぼ公平」な映像を見せ、それぞれの扁桃体の活動を調べた。その結果、多くの人で扁桃体は「自分が損をする」場合に激しく活動し、私が驚いたことには「自分が得をする」場合でも激しく活動した。「ほぼ公平」な場合だけほとんど反応していないのだ。平等はうつ病の原因となる扁桃体を活動させないことがわかった。
 ハッザの人々やこの実験を見てもわかるように、平等はうつ病の原因を抑えこんでいた。互いを敬い助け合うことで、孤独にもならず嫌な記憶も癒やされる。人類はもともと平等の精神をもっていたはずなのに、文明社会によってうつ病への道を歩み始めてしまったのだ。「この文明社会でどのように克服していくのか、うつ病に苦しむ人だけでなく社会全体で考えなくてはならない病なのです」というナレーションに、私は大きく頷いてしまった。

 ちなみに最新の治療法を2つ紹介していた。1つはドイツで行われているもので、頭に穴を開け電極を埋め込んで脳を刺激する「DBS(脳深部刺激)」と呼ばれる治療法。ペースメーカーからの電流で扁桃体などを刺激し、働きを正常化し症状を抑えようというもの。SF映画みたいで不思議な映像だったが、物理的に脳に働きかける治療という意味でかなり効果がありそうな気がしてしまう。寝てるだけでいいから楽そうだし、少しやってみたい。
 もう1つは「TLC(生活改善療法)」と呼ばれる治療法。狩猟採集の人々の暮らしを参考にしたもので、スタッフとの信頼関係を築き、地域活動に参加するなど社会的な結びつきを強めることを重視している。定期的な運動や生活習慣の改善にも取り組み(運動は萎縮した脳の神経細胞を再生させる働きがある)、昼間は太陽の光を浴び夜はしっかり眠る規則正しい生活を行う(ストレスホルモンの分泌を正常に戻す効果がある)。これまでに治療を受けたおよそ100人のうち7割以上に改善が見られているという。これって私が入院してる時にやらされてたことそのものだが、最新の治療法なの?大事なことなのだろうが、今となっては当たり前の事を言われているようでお腹いっぱいという感じ。1人で続けるのは難しいのかもしれない。

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