自己中心性と自己中心的は全然違うらしい

エッセイ

優しいけど冷たい夫

私の夫は自分の事しか考えない。「他人の事などわかるわけないのだからそもそも考えない」と言って悪びれない。ましてや視界に入っていない人のことなど、その存在すら頭の中から消してしまう。

例えば私と一緒に歩いていても、歩幅が違う夫は一人でズンズン先に行ってしまう。私はよく転ぶのだが、彼は私が転んで横から消えてしまっても気づかないまま歩き続ける。しばらく一人で歩いて何か言おうとした時に、初めて私がいないことに気づくようだ。遠く前方で「あれ?」って言いながらキョロキョロする夫の姿を何度見たことだろうか。

私が体調を崩して寝室で寝込んでいる時も、彼はもちろん私の存在を忘れている。お腹がすくと私を思い出すようで、私がいないリビングのドアを開けて「あれ?いない」からの寝室のドアを開けて「ご飯どうする?あれ?寝てる」とビックリする姿を何度見たことか。いや前日から寝込んでるじゃん。

でも彼は対外的には人当たりがかなり良く、誰からも「すごく優しそう」と言われる。確かに声を荒げたり、ひどいわがままを言ったりするわけではない。そこは本当に助かっているのだが「優しくていい旦那さまね~」と言われるとめちゃめちゃモヤモヤする。こんなに冷たいのに。

彼はなぜ優しそうに見えるのか。それは他人に興味がないからだと思う。彼にとって他人はみなRPGに出てくる街の人。Mobである。用がある時だけ思い出して行って話しかける。Mob側から見たら、攻撃も無理強いもしない彼は優しく見えるだろう。でも、彼は自分の目的を達成するためにMobをどう使うかは考えても、Mobの気持ちを想像することはしないのだ。

男脳といえばそれまでなのだが、男の人でも感受性が豊かな人はいくらでもいる。どうしたもんかと色々調べていたら「自己中心性(egocentrism)」という言葉を知った。

自己中心性とは

「自己中心性(egocentrism)」はスイスの心理学者 J・ピアジェが名付けた言葉で、幼児の精神構造の特徴を表わす。

自分自身の視点を中心にして周囲の世界を見ること。ピアジェはこれを子どもの思考の特徴として指摘した。(中略)
自分自身を客観的に見ることができないため,自分の考えを意識したり,活動を反省したりすることもない1

うわ、これうちの夫だと思った。「反省?したことない」って自分で言ってたし。夜寝る時もなーんも考えないから5秒で寝落ちしてるし。あと恋愛リアリティショー見て夫は「よくみんなこうやって自分の考えを言葉にできるよね」と不思議そうにしてた。そもそも彼は今まで”恋バナ”をしたことがないそうだ。学生時代、私生活を何も語らない彼がちょっと秘密主義で謎めいてるとか思ってたのは大きな勘違いだった。今ならわかる。そもそも自分の考えがわからないのだ。子供かっ。

なお、「わがまま」「自己中心的」(selfishness)と違って「自己中心性」にはネガティブなニュアンスはないそうだ。

言葉意味
自己中心性自分と他人を明確に区別できず、他者の視点を理解できないこと。
わがまま他人のことを考えず,自分の都合だけを考えて行動すること。
自己中心的(自己中)常に自分を中心にものごとを考えて、他人の都合は考えないこと。
自己中心性・脱中心化とは何か?ピアジェの背景理論とともに具体例で解説|Phyco Phyco

「わがまま」「自己中心的」(selfishness)との違いは、他者の視点が理解できているかどうかが最大のポイント。

わがままや自己中心的は、他者の視点は理解していて、そのうえで”自分さえ良ければ他人はどうでもいい”と考える訳です。
対して自己中心性は、他者の視点を理解していないので、”他人がどう思っているか”という発想がそもそもありません。発達的に未熟だからです。ここに決定的な違いがあります。2

だから「自己中心性」は悪口ではない。ただそういう特徴があるというだけだ。ここ重要。(発達的に未熟って悪口じゃないのモゴモゴ・・・)

「自己中心性」を脱する方法

子どもは年齢が上がるにつれて、自己中心性(物事を自分の視点でとらえてしまう)傾向が弱まることが知られている。他者の視点を理解できるようになる(脱中心化)のはだいたい7歳~11歳。けれども大人になっても、自分の有する知識によって他者の心の状態をとらえてしまう「自己中心性バイアス」が見られることがある。3

「自己中心性バイアス」を自覚していて、ともすると「自己中心的」と思われてしまう性格に悩んでいる場合には、脱中心化する方法として次のようなものがある。4

  • メタ認知(俯瞰して見る能力)を高める
  • 周囲の人々に興味を持つ
  • 相手を否定しない習慣を身に付ける

ただうちの夫を見ると、全く自身の「自己中心性」を自覚していないようだ。たぶん困ってもいないし、直そうとも直す必要があるとも思っていないように見える。うっかり指摘しようもんなら「自分が否定されている気がする!」と怒り出してしまうだろうから、とてもじゃないが言えない。

そしてやはり行きつくところは「発達障害」というワードである。

「自己中心性」は発達障害が原因かもしれない

例えば発達障害の1つである自閉スペクトラム症(ASD)の症状の1つに、次のようなものがある。5

イマジネーションとコミュニケーションの障害と自己中心性があります。
興味のあることを一方的に話し続けてしまうなど、自分中心の考え方が強いことがあります。冗談や比喩が理解できず、想像力が貧困で字義通りを要求する人もいます。自分の感情や人の気持ちを理解するのが苦手で、感情的なやり取りや合意が困難なことがあります。非言語的なサイン(表情・目配せなど)を読み取る困難さが拍車をかける場合もあります。

やだ、うちの夫だわ。自分がいじられるような冗談言うと怒り出すし。誰かの素敵なたとえ話に「意味がわからん」といちゃもんつけるし。

とするとだ。よく知られている通り発達障害はただの特性なのだから、”克服する”とか”直す”という言葉は当てはまらない。なので一緒に生活する人間としては「そういう人なんだね。ふーん」で終わらせなければならない。そしてまた一人、カサンドラが誕生する。

目には目を

しかし残念ながらこちらは生身の人間。毎日毎日ほぼ無視のMob扱いをされて「そういう人なんだね。ふーん」で笑って終わらせるのはかなりしんどい。

辛すぎるので、腹いせに私も彼をMob扱いすることにした。家の中で夫とすれ違っても、用がなければ話しかけないし目も合わさない。今まで夫のためによかれと思ってしてあげてた事は全部やめた。夫から何やら頼まれてもやりたくない事は「やだ」と断る。手伝って欲しい事がある時だけ、夫に話しかけて頼む。やられる前にやり返せ!目には目を!おめえはMobだ!そう思うと何だか気分がいい。へへへ。ざまあみろ。

しかし驚いたことに、Mob扱いされている夫は不機嫌になるどころか非常に快適そうに過ごしているではないか。これまで私が「それでね、それでね」と楽しく話をすると「うるさいなー」という顔をして逃げてたくせに、Mob扱いしたら上機嫌とはつくづく変わった人だ。私には永遠に理解できない。

ただ気になることがある。
お気づきだろうか。私が夫そっくりの理解不能な「自己中心性」の強い人になってしまっていることを。ミイラ取りがミイラになるとはこの事だ。怖すぎ。

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おわりに

この記事をほぼ書き終わった後テレビで野球を見ていて、横浜スタジアムの犬連れ可の席を夫に話した時のこと。

私が(犬は大きな音に驚くからかわいそう)の意味で「ちょっと嫌だよね」と言ったら、彼はただ一言「やだ。野球が見れないじゃん!」とのたまった。大人のみなさんには理解できないと思うが、彼の言葉を通訳すると(犬のお世話をしながらだと自分が野球を楽しめないから嫌だ)の意味。どこまでも自分視点の夫なのであった。自信が確信に変わった瞬間である。


  1. 自己中心性 |コトバンク 出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」 ↩︎
  2. 自己中心性・脱中心化とは何か?ピアジェの背景理論とともに具体例で解説|Phyco Phyco ↩︎
  3. 相手が知らない情報から、相手の感情の強さを誤って判断する「自己中心性バイアス」|神戸大学 ↩︎
  4. 自己中心的な性格を直したい場合はどうする?特徴や原因、直し方を解説!|働き方サイト ↩︎
  5. 自閉スペクトラム症(ASD)とは|こころの育ちクリニック ↩︎

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