羽虫

続・どんぐりの背比べ

 洗面所で小さな小さな羽虫が暴れていた。水滴を背負って暴れていた。そのまま水で流してしまおうかと思ったが、なんとなくかわいそうになり水滴を指でぬぐってあげた。それでもまだ羽と足が濡れていて立ち上がれないようだったので、ティッシュペーパーで水分を吸い取ってあげた。乾くまでここにいなさいね、と言ってティッシュペーパーの上に乗せておいた。しばらくして再び洗面所を見に行くと、羽虫はいなくなっていた。どこかへ飛んでいったのだろう。
 ああ良かったと思うと同時に、こんな事して偽善者だなと思った。次に見た時、私は羽虫を手で握りつぶすかもしれない。蚊を叩くような人間だ。魚を食べ、鶏を食べ、豚を食べ、牛を食べている人間だ。無数の殺生を繰り返している。その一方で、かわいそうな生き物を見て涙を流したり、小さな羽虫を助けたり、矛盾してるったらありゃしない。羽虫1匹助けただけで、今までの罪が救われるとでも思っているのだろうか。なんだか急にすさんだ気持ちになった。

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