うまくいかないこと

エッセイ

 昨日、ニューヨーク・ヤンキースのイチロー選手が日米通算4000本安打を達成した。努力する天才というイメージのイチロー。インタビューの受け答えはいつも小難しいことを言うので、この日も何か変なことを言うのかなと思ってニュースを見ていたら、意外な言葉が耳に入ってきてハッとした。

「誇れることがあるとすると、4000のヒットを打つには僕の数字でいくと8000回以上は悔しい思いをしてきている、それと常に自分なりに向き合ってきたことの事実はあるんで、誇れるとしたらそこじゃないかなというふうに思います。」

言われてみればその通りで、全盛期のイチローで打率は4割。それでも打席では失敗の方がはるかに多いのだ。完璧を求めれば求めるほど失敗は悔しいのだと思うが、20年間常にそれと向き合ってきたのだからその精神力はいかばかりかと察する。
 さらに続けて記者会見での言葉が印象的だった。

「記憶に残っているのは、うまくいったことではなくて、うまくいかなかったことなんですよね。その記憶が強く残るから、ストレスを抱えるわけですよね。みなさんも同じだと思うんですよね。」

「これからも失敗をいっぱい重ねていって、たまにうまくいってという繰り返しだと思うんですよね。なかなかうまくいかないことと向き合うことはしんどいですけど、これからもそれを続けていくことだと思います。」

「うまくいかないことと向き合うことはしんどいですけど」の後、わずかではあったが一瞬だけ間が開いた。なんだか勝手に、うまくいかなくて悩んでいる人々へエールを送ってくれるのではないかと思ってしまった。当然そんなはずもなく最後は優等生らしく今後の抱負で締めていたが、あのイチローでもうまくいかないことをしんどく思っているということを知って、少しだけ親しみが沸いたのは事実。
 本当に世の中はうまくいかないことばかり。社会を恨み、他人を恨み、自分を恨み、自暴自棄になってしまう。努力しているイチローでさえうまくいかないことが多いと言っているのに、何もしていない私なんてうまくいかないことだらけなのは当然といえば当然だ。
 あれだけ量産している1本のヒットについて、イチローは「ストレスを抱えたなかで、瞬間的に喜びが訪れる、そしてはかなく消えていく。」と表現していた。いいことなんてそうそうあるもんじゃないのかもしれない。私はいったい何を期待して日々を過ごしているのかと反省した。私もうまくいかないことと向きあっていく強さを鍛えなくては。いや、一般人だからまともに向き合わなくてもいいのかもしれない。せめて淡々とやり過ごすスキルを身につて、ごくたまに訪れる小さな幸せを見つけて喜べるような人間になりたいと思った。

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