腹黒ちゃん

エッセイ

 皮膚科クリニックの待合室に座って順番を待っていたら、診察を終えて診察室から出てきたスラッとした女性?男性?が私に一瞥もくれずに私のすぐ隣にスッと腰を下ろした。

 えええ!?他に席いっぱいあるのにここ?キョロキョロ周りを見渡しても待合室はかなりガラガラである。強いて言えば空気清浄機の風を浴びていた私の真横にその風を遮るように座ったから、風が欲しかったのかもしれない。でもコロナ禍でよ?お会計待つだけよ?あ、お会計待つだからどこでもいいじゃんっていう考え方?

 そこから暇に任せて私の趣味である人間ウォッチングとプロファイリングが始まった。まず性別は…短髪黒髪でほぼノーメイクっぽいものの、黒Tシャツにパンツスタイルだと思ってよく見るとスリット付きのタイトスカートなのでどうやら女性っぽい。だが今時はジェンダーレス時代だしここでは性別は関係ない。ほどなくしてお会計に呼ばれて立ち上がった所作を見ても、急ぐ様子も周りに視線を配る様子もはなくこの人の世界に他人は見えていないようだ。あるいはパーソナルスペースがとても狭い事が伺える。ファッションセンスは…お世辞にも流行とはかけ離れていて他人に同調するパーソナリティでもなさそうだ。さもありなんと独り頷く。

 でも不思議なのは、彼女が出てきたのは美容皮膚科の診察室だった。シミしわたるみ美白ケアの最先端の医療美容施術を施してきたと思われる。マスクでよく見えないが、確かにお肌はキレイかも。他人を気にしない人が自分の目を気にするのだろうか?ああ、他人の目は気にしないけど自分の顔ばっかり見てるから自分の目が気になるんですね、わかります。私はまた腹黒く頷く。

 だが決めつけは良くない。一度は自分を否定することも必要だ。いや待てよ?ひょっとしたらこれは仮の姿で本気を出したらセレブ社交界ではすごい人なのかもしれない。そのための最先端美容医療!言われてみたら背は高くスラッとしていてスタイルもよく顔が小さい。え、モデルさんとかそういう系?

 二度見する寸前で彼女は出ていったし私も診察室に呼ばれた。おかげで長い待ち時間も退屈せずに過ごすことができた。これだから腹黒ちゃんの人間ウォッチングは止まらない。

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