都会の無関心

続々・どんぐりの背比べ

 土曜日の朝のこと。一人で家にいたら、外から「リリリリリ・・・」とけたたましいベルの音が聞こえてきた。目覚ましとかそういうレベルではなく、古いタイプの火災報知機のような音。そういえば何年か前に、斜め向かいの小さなマンションから同じような音が聞こえた事があって、後日掲示板に火災報知機の誤動作だった旨が書いてあったのを思い出す。またそれかなあと思いつつ、念のためベランダに出てみた。
 家の前は比較的広い道路で、人通りもある。斜め向かいのマンションの横には小さな店舗があり、駐車場に停めた車から人が出てきたりもしていた。ところがその方向でベルが激しく鳴っているというのに、通りを歩いている人は気づいていないのか気づいているのに無関心なのか、みな悠然と歩いている。騒音や風向きの関係でこちらにしか聞こえていないのかと思ったが、うちのマンションのベランダを見渡しても誰も顔を出している人はいなかった。私の幻聴なのだろうか。狐につままれたような気分になった。ただ、1人だけそのマンションを振り返って見上げた人がいたので確かに音はしていたのだろうが、その人も止まることなくそのまま行ってしまった。
 そういえば以前、うちのマンションでも大きなアラーム音が鳴り響いた事があった。最初は家の中にいた時に鉄筋づたいに何かファンファン聞こえてくるなあと思ったのだが、あまりにも鳴り止まないので玄関を出てみると下の方から大きな音がしている。音の発生源を確かめに1階まで降りてみたら、管理人室からそれはそれは大音量のアラーム音が聞こえてきた。週末で管理人さんは不在だった。私はオロオロしてしばらくその場をうろついていたが、通りかかったのは1階に住んでいるという小学生ぐらいの男の子1人だけ。その子いわく「それさっきからずっと鳴ってるよ。お母さんがほっとけばいいって言ってた。」と笑っていた。まあおそらく警備会社かなにかに連絡は行くだろうし、確かに放っておけばいいかと思って一旦部屋に戻ったのだが、それから5分以上たってもアラームは鳴り止まなかった。もしかして誰かが家の中で倒れて、インターホンの非常ボタンを押したのかもしれない。苦しんでいる人がいるのなら警備会社の到着を待ってる場合ではないのではないか。そう思うとやはり放っておけなくて、私は再度管理人室に行ってみた。
 ガラス窓から薄暗い部屋の中を除きこむと、アラーム音と同時に赤く点滅している小さな3桁の数字が見える。おそらく部屋の番号だと思い、私はオートロック外のインターホンからその部屋を呼んでみた。すると男の人が普通に出て「なんでしょう?」と言うので、説明するのにしどろもどろしてしまった。それでも男の人は事情を飲み込んでくれたようで、「ええ?なんでだろう?うちは大丈夫です。午前中にも一度警備会社から連絡があったんですよね・・・わかりました。こちらから再度連絡してみます。」と言ってくださったのでホッとした。結局その後しばらくしてアラーム音は止まり、何事もなかったようなので私の一人芝居に終わったような感じだったが、うちのマンションの警備体制はいったいどうなっているのだろうと疑問に思った。と同時に、マンション住民が誰も出てこない事を不安にも思ったものだった。
 その翌日、共通ポストの横の壁に貼り紙がしてあって、「昨日アラームの件でインターホンごしに心配してくださった方、本当にありがとうございました。うちではなく隣の棟の○○○号室のお子さんが、誤って非常ボタンを押したためとわかりました。本当に感謝しております。」と書いてあった。関係のない人を騒ぎに巻き込んでしまって申し訳ない気持ちでいっぱいになったが、何やら感謝されていたので少し嬉しかった。
 それにしてもそのアラームの件といい土曜日の火災報知機の件といい、近所でその手の音に反応しているのは私1人らしい。都会の人の危機意識の低さというか、他人への無関心さには本当に驚かされる。かく言う私も土曜日は、「誰も気にしてないみたいだしまたどうせ誤動作だよね」と自分を納得させて、家の中に戻ったのだった。

※本当は都会じゃなくて単なる郊外ですけど

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